生産管理部長 兼 工場長 中馬 氏 / 印刷課課長 岩根 氏
木曾機長
大阪と東京にそれぞれ本社を持つ東洋紙業株式会社は、すでに80年を超える歴史を持つ息の長い総合印刷会社である。同社は、常に新しい印刷技術の導入を積極的に行ってきた。
その東洋紙業が2017年8月に達成したのが、2つのH-UV機(菊全判4色機・5色機)を水なし印刷機として生まれ変わらせたことである。今回は、同社がどういった経緯で水なし化に至ったのか、また水なし化によってどのようなメリットを得たかなどを、今後の課題とともに紹介したい。
2001年に設立された一般社団法人日本WPA(水なし印刷協会)には、初期会員として約20社の企業が名前を連ねていた。東洋紙業もそのうちの1社である。水なし印刷の黎明期から丁寧に育んだ技術が前述の成功体験に繋がったのは間違いないが、必ずしもそれは平坦な道ではなかった。
水なし化について印刷課の岩根聡課長は、「6年前にH-UV機を導入した時点でテストをしてみたが、実現できなかった。」と語る。油性の経験と技術を十分に蓄積した東洋紙業であっても、水なし化が難しかったことが伺えるエピソードだ。それ以来機会を待っていたという水なし印刷への挑戦は、新しいH-UV機の導入によって再開された。
新台導入後に印刷課が悩まされたのは、UVインキに含まれる光重合開始剤が湿し水と反応することでおこるゴーストの頻発だった。また、油性印刷に比べ濃度ムラや過乳化といった「水」に関係するトラブルにも細心の注意を払う必要があった。
「問題が水に起因することは明確だったので、試しに水なしでやってみたらぴたりとゴーストが止んだ。」 他の機長ともどもH-UV機の水なし化を提起した岩根課長は当時をこう振り返る。そして会議の末、東洋紙業はこの提案を承認。水なし印刷のメリットを熟知している機長たちの意向を尊重しての決断だった。
東洋紙業の創立以来初となる、H-UV機による水なし印刷への挑戦が再開された。6年前の経験をもとにまず行ったのは、メーカーに印刷機のチラー(冷却装置)の出力上限を引き上げてもらうことだった。加えて水なし印刷についてノウハウを持つ東レやインキメーカー各社にも協力を仰いだことが功を奏し、それほど時間をかけずに運用にこぎつけることが出来た。
水なし印刷は、色合わせやOKシートが出るまでの時間を大幅に削減できるなど、さっそく期待通りの効果をあげた。また、たとえば調量ローラーのインキを手で拭き取るといった水に関するメンテナンスが一切不要となったことで、オペレーターの負担軽減も実現できた。中馬生産管理部長兼工場長はこの成功を、「永年にわたる油性水なし印刷の経験とノウハウの成果」と評価している。
生産性向上のメリットが際立つ水なし印刷だが、さらにコスト面のメリットも期待できる。
H-UV機の樹脂ローラーは加水分解による劣化が激しく概ね半年くらいで交換が必要になるが、水なし印刷であれば、同じローラーが1年~2年、もしくはそれ以上利用できる可能性があるのだ。水なし印刷が技術者だけでなく経営者にも注目される理由がお分かりいただけるのではないだろうか。
最後に、岩根課長が今後の課題として挙げた事柄をひとつ。「現在、水なしH-UV機で利用できるインキはレギュラー4色しか存在しないが、中間色や金銀など色数を増やしてもらいたい。」これは、東洋紙業のように包装紙などで特色をよく使う印刷会社が一致して願うことであろう。インキの種類・性能をはじめ耐刷力の向上など、水なし印刷への期待は大きい。
東洋紙業株式会社
代表者:小川淳
大阪市浪速区芦原1丁目3番18号
URL: http://www.toyo-s.co.jp