:ピーター・ハンザー・シュトレッカー氏とクリス・スミス氏
このIpex2014の圧巻は質の高い無料セミナーの豊富さである。まじめに会期中のセミナーを全部聞きたがったが、時間余裕がなく、切り上げての帰国で散漫になったのが残念だった。受講したセミナーを紹介させていただく。
Halstan Printing GroupのCEO クリス・スミス氏が自らの経営体験談をMasterclasses・第1セミナー室で講演してくれた。氏は63歳、過年度のロンドンマラソンの市民ランナーとして出場された屈強な体力をお持ちの方である。100年続いた印刷会社を率い、出版関係の仕事をこなす。主たる仕事は、楽譜印刷、定期刊行物、科学書籍などであるが、その話しは英国魂そのもの生き方である。
2003年、Ideal Printers社を買収、規模拡大を目指す。買収先の設備の古さに手を打ち、CD102-4とBravoPlus with Armys(糸かがりライン)をすぐさま導入する。2007年にはOceのVarioPrintも入れたが、思いの他、儲かるようにはなってくれない。たまたま、縁があって出版社まで買収する。そこでよく分かったことは、出版事業は在庫に苦しまれ、在庫を如何に減らすかが商売のやり方と気づく。これにはオンディマンドのやり方しかないか・・・そんな中で、中堅印刷会社の雄、Pindar社の経営が行き詰まってきて、部門を分離しての売り出が出る。スミス氏はAylesburyにあるPindar社地図作成部門16名(webデザイン・web制作・クロスメディア制作、eコマース・eマーケティング、eブック、データーベース管理)だけを買収する。買収の理由は単純で、自分でもここに仕事を流していてある種の固定客があったのが理由とされていた。買収後、幸運にも恵まれ、ロンドンオリンピックでは地図制作の特需が飛び込んでくれた。
以前から音楽関係の仕事をしていたが、音入れのため曲需要があることに気がつく。これを楽譜出版と言う形で事業にしたところニッチの商売になるではないか。しかし、オンディマンドで即印刷する仕組みを作り上げねばならない。このとき、買収したPindarのプリプレス部門が戦力となってくれた。糸かがりの広開本のオンディマンド生産をしてみる、これはいける事業ではないか。英国ではこれで商売になってくれた。
そこでスミス氏は以前からのドイツの盟友・ドイツ最大音楽出版社、ピーター・ハンザー・シュトレッカー氏と提携し、今年の3月にマインツにHalstan Deutschlandを設立する。音入れ用の楽譜を知らしめるのにオンディマンド出版が最良事業と見抜いてのことだ。ドイツのこの市場規模は欧州広域にまたがっていて英国の比ではない。スミス氏が回想するに生き残りのために氏は企業買収を次々と打ったが、その結果、価値あるニッチ市場をついに発掘することができたとしている。
今後は買収した会社間の人材の交流を図り、さらなる新しい価値発掘、育成に努めたいとされていた。
日本ではお目にかかれないタイプのまさに、英国魂を持つ印刷人経営者であった。