現下の印刷経営には大変厳しい側面があるが、逆風に立ち向かう実践法をこの催事を通して大いに学ばせていただいた。
福田社長は稼業を継いで10年の年月が経過した。創業の旧椎名町の工場は時が経つにつれて、住宅地となり、増床の積み重ねの工場では印刷条件上も決していいものではなくなってきつつあった。福田社長は新工場建設の具体案を立て着工にかかろうとした途端、建築資材の値上げに遭遇し、施工主側から見積費用の大幅引き上げを言われる目に遭遇された。リーマンショックともぶつかったが、その後、資材相場の落ち着きもあり、長期視点から建築に踏み切られた。「人の行く裏に道あり花の山」であったのかもしれない。しかし、印刷事業に対する情熱が社長の決心の根底にあったと見受けた。
新しい工場では、最新のテクノロジーを導入し、独創的にして、理想的な印刷工場の建設に当たられた。
印刷室はどの地点をとっても均質になる空調
機械1台ごとにミューテック機を配した省力化
先方紙一時ストックに対応した550パレットからなる、ラック倉庫はオンディマンド搬送機能を備え、工場内空調のチャンバールールに流用し、かつ、用紙のシーズニングにつなげている。
工場内壁面には吸音版を敷設
ハード面もともかく、ジャパンカラーを取得され、定期的に全機械の標準トーンカーブ仕立てを行っているし、環境認証も積極的に取得されている。
案内してくれた清水常務に熱心に質問する見学者の一行、熱気あふれる見学会であった。
工場管理、経理のための情報化投資(ウエマツ基幹業務システム)も既に何億円とかけておられる。既存のソフト類はウエマツの実情とあっていなかったので、SEの手を借り、自前ソフトを作り上げた。これでガラス張りの見える化管理ができるようになってきた。
この数年の業績も順調に推移していて、好循環のサイクルに入っている同社には将来への自信の程がうかがえた。
本論の〜新しい水なし印刷の可能性の検証〜はすばらしいの一言に尽きる。ダブルデッカー機を6台手持ちしているが、その機構の特性から水ありでは上下胴からくる湿し水の影響で菊全判だとファンアウトが大きく起きてしまう。これが見当障害となり、版の加減焼きを相当量強いられていた。
椎名町の工場でこの解消のために、水なし化を検討しテストもしたが、工場環境の不備が露呈され、新工場で再度挑戦することとなった。当時は、こんな具合で1台のダブルデッカー機は動かしていない状態であった。新工場移設後、水なし化のテストを再度行ったが、工場環境の格段の向上効果により、水あり時では今まで見られなかった、見当精度の向上が水なし印刷で実証され、今や、5台の機械を水なしに転換してリニューアルして使い出した。17年のダブルデッカー経年機が水なし化でもう一度、現役復帰をして働き出すとは驚きである。これにはウエマツ様の執着心、FFGS、東レ、タケミの関係者のご努力に負うところも大きい。
柴崎武士氏(タケミ・社長)の見解では、昨今の市場傾向を見ると印刷会社としては、このような自衛手段をも考えるべき時代になったのではないかとしていた。
工場見学に移ったが、第1印象はパウダーの付着の少ないこと、水なし両面機でも想像以上に少ない。工場内がものの見事に整理整頓され、社員の皆様の挨拶励行は実に徹底していた。大変有意義な、ある意味でショックを受けた見学会であった。