日本WPA協賛会員の東レ株式会社(本社:東京都中央区、社長:榊原定征、以下「東レ」)は、「環境低負荷な水なしCTP平版の開発」について、(社)日本印刷学会から「平成20年度 日本印刷学会技術賞」を受賞した。このたびの受賞は、東レが開発した水なしCTP平版の、環境への低負荷という特長を始め、経済的優位性や優れた印刷特性が高く評価されたものである。
(社)日本印刷学会は、1928年に創立されて以来、一貫して印刷業界と大学、公設研究機関など産学官の技術者や研究者間の情報交換・交流を促進し、印刷技術のレベルの向上と普及に取り組んできた。その活動の一環として、毎年、印刷産業の発展、あるいは印刷技術の他産業への応用に顕著な貢献をした技術内容に対し、「日本印刷学会技術賞」を授与している。
東レは今回、水なしCTP平版の開発による印刷産業の発展への貢献が認められ、同賞を受賞するに至った。
近年、世界的な環境意識の高まりの中、平版印刷業界においても、VOC(揮発性有機化合物)低減やアルカリ現像廃液の削減など、環境問題への対策が急務となっている。また、デジタル技術の進展などを背景に、画像データをレーザーで印刷版に直接書き込むというCTP(Computer To Plate)システムの普及が急速に進んでいる。
東レではこうした背景を受け、2000年4月に、近赤外レーザー光により画像形成可能で、幅広い分野での印刷適正に優れた水なしCTP平版の開発・製品化に世界で初めて成功した。この水なしCTP平版を用いた印刷システムは、湿し水不要によるVOC低減や水現像方式による廃液レスといった環境低負荷を、印刷品質の向上・安定、コスト低減といった経済性とともに提供する技術として、ユーザーから高い信頼と評価を得ている。
東レは今後も、“Innovation by Chemistry”のコーポレートスローガンのもと、水なしCTP平版のさらなる性能向上、安定供給・サービスを通じて、持続可能な社会の実現、印刷業界・情報化社会の発展に貢献しくとしている。
なお、本技術については、昨年、グリーン・サステイナブル ケミストリー ネットワーク(GSCN)から、化学製品の使用過程における人と環境の健康・安全に対する影響を低減させようとする化学技術・製品において、独創的な研究開発を行い、グリーン・サステイナブル ケミストリー(GSC)の推進に大きく貢献したという功績が認められ、「第6回(2006年度) グリーン・サステイナブル ケミストリー(GSC)賞」を受賞している。今回は、これに続く受賞となった。
今回の受賞に関する主な技術の特徴は下記の通りである。
記
受賞テーマ「環境低負荷な水なしCTP平版の開発」
本技術の特徴
地球温暖化など地球レベルの環境問題が国際的にも議論される中、平版印刷業界においても、VOC(揮発性有機化合物)低減やアルカリ現像廃液の削減など、環境問題への対策が急務となっている。また、印刷業界においては、デジタル技術の進展を背景に、銀塩フィルムをマスクとして用い紫外線照射するという従来の画像形成方式に代わるシステムとして、コンピューター上のデジタルデータを、レーザーを用いて印刷版に直接書き込むというCTP(Computer To Plate)システムの普及が急速に進んでいる。
東レでは、1974年(昭和49年)から高分子化学、光化学をコア技術とした印刷用版材の事業を展開しており、環境負荷の少ない水なし平版では先駆者として市場での確固たる地位を築いてきたが、このような動向を受け、新たに、水なしCTP平版の開発に取り組んだ。その結果、2000年4月に、光(熱)剥離機構と呼ぶ新規な画像形成機構の発明、新たなシリコーンゴム材料の設計・開発等により、近赤外レーザー光により画像形成可能で、一般商業印刷分野から新聞印刷分野など広い分野での印刷適正に優れた水なしCTP平版の開発・製品化に世界で初めて成功した。水なしCTP平版を用いた印刷システムは、水ありCTP平版(PS版)を用いた印刷で必須である湿し水が不要となり、規制の対象となっているイソプロピルアルコール(IPA)を含め、湿し水由来のVOCを6〜8割も低減できる※注1と共に、水現像方式により、水ありCTP平版の現像で使用する強アルカリ現像廃液を全く出さないなど、極めて環境に優しいシステムとなっている。さらに、印刷品質の向上と安定、印刷コストの低減も図れるシステムである。
本技術の主な展開先と今後
昨今の環境意識の高まりを受け、環境問題に熱心な公的機関・企業において、グリーン購入基準などで水なし印刷の指定が行われると共に、その象徴であるバタフライロゴの印刷物への掲載が一層、進められるなど、水なし印刷が大きなうねりになりつつありる。公的機関の発行する広報誌や、企業のカタログ、宣伝物などの一般商業印刷分野をはじめとし、書籍、雑誌などの出版印刷分野で、年々、水なし印刷の採用が拡大している。特に最近では、環境先進地域の欧州において、日本発の環境に優しい技術として高く評価され、これまで適用が難しかった新聞印刷分野への展開も進んできた。さらに、水あり印刷では印刷難易度の高いとされる、パッケージ印刷、CD/DVD印刷分野へと展開されるなど、世界的な規模で水なし印刷の普及が加速している。
東レは、水なしCTP平版のさらなる性能向上、安定供給・サービスを通じて、拡大する市場のニーズに応えていくとしている。
※注1:平成18年東京都環境局VOC対策アドバイザー調査による。
以上